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概要

news_no.106

(16)第106号 一般社団法人 全国病児保育協議会ニュース 2021年(令和3年)4月1日 森尾先生の講義は、免疫という、やや難解で、しかも最新の知見を多く含む領域を、わかりやすく伝えていただけるものだった。  とても親しみやすいイラストで免疫の仕組みを概説し、細菌、ウイルス、真菌といった感染症の原因別に仕組みを整理する内容から入った。細菌感染に対する好中球の役割や、感染予防における免疫グロブリンの役割について説明された。ウイルス感染に対してはリンパ球の働きが重要であると説かれ、T細胞のはたらきをユーモラスな漫画で提示いただいた。これら獲得免疫を補完するものとして、ワクチンについて説明された。そして、インフルエンザワクチンなどの不活化ワクチンで獲得されるのは主に抗体であるが、これまでの説明で、ウイルスに対しては、抗体と共に、キラーT細胞もできることが一番有効であり、これには、生ワクチンと、COVID-19で話題になっているmRNAワクチンが役立つと言われた。 さらに、SARS-CoV- 2の最新知見を示された。感染しやすさについて、ACE 2分子がウイルスの入口になっていることから、小児ではACE 2が少ないため、侵入しにくく、喫煙者や心不全患者でウイルスが侵入しやすいとされた。また、ウイルスの増殖をおさえ初感染時に重要な働きをするTypeIインターフェロンについて、無症状の人では機能しているが、重症例では自己抗体のため機能しにくいことを説かれた。SARS-CoV- 2に対して自然免疫で戦うときに、このTypeIインターフェロンがうまく機能しないと、後方部隊の免疫反応が暴走してサイトカインストームという大火事が起こる機序を説明された。 このSARS-CoV- 2に対する抗体が、どの程度持続されるのかについて、まだ短期的な報告しかないため、従来型コロナウイルスの免疫記憶に対する研究を引用し、10名に対する35年間における経時的データーから推測すると、1年程度で反復感染がおこるとの推論を示された。 小児例では特徴的な症状がないため、その診断には、地域における流行状況の把握や周囲の人の感染兆候の丁寧な問診が重要といわれた。小児で軽症例が多い理由については、前述のACE 2分子が少ないことや、肥満や肺合併症などリスク因子が少ないこと、可能性として前述のTypeIインターフェロンに対する自己抗体が少ないことなどを述べられた。そして、推測と断りながら、従来のコロナの免疫記憶を持つ大人にくらべ、小児は不利なはずなのに、そうではないのは、小児のもつ自然免疫(獲得免疫の前に働く初期対応)が優れている可能性があると、意味深い指摘をされた。また、注目されているワクチンについては、mRNAワクチン研究の歴史は長く、前述のように従来の不活化ワクチンと比較しても優れた点があり、治験でも十分な有効性が示されているとご教授いただいた。 森尾先生、名講義ありがとうございました。感染症にかかったときの私たちの免疫応答カビ、細菌、ウイルス(SARS-CoV-2)    講師:森尾 友宏 (東京医科歯科大学大学院発生発達病態学分野小児科教授)報告者/座長:佐藤  勇(よいこの小児科さとう病児保育室よいこのもり)感染症対策委員会主催セミナー